はじめに
変形性膝関節症(OA)は、日本だけで約1,000万人が悩む “国民病” と言われます。
✔️「階段を降りるたびにズキッと来る」
✔️「正座はもう何年もしていない」
こうした声の背景には、膝の軟骨がすり減り クッション機能が低下 するという単純で、しかし厄介なメカニズムがあります。
近年 PRP(多血小板血漿) と 幹細胞培養上清液〈エクソソーム〉 という“細胞のチカラ”を利用した 再生医療 が登場し、保存療法と手術のギャップを埋める第3の選択肢として注目されています。本記事では、それぞれの仕組み・効果・安全性を深掘りして、治療選択のヒントをお届けします。
1 膝が痛くなるメカニズムを復習しよう
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軟骨の摩耗
正常な軟骨は “スポンジ+潤滑油” の役目。水分が抜け、ひび割れるとクッション力が低下してしまいます。
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炎症スパイラル
軟骨のかけらが関節液に漂う→免疫細胞が反応→サイトカイン(IL-1β等)が炎症を拡大。膝に水が溜まって腫れる。 -
骨棘と変形
身体はズレを埋めようと“余計な骨”を作り、内反(O脚)を加速。
豆知識:軟骨には血管がないために、自己修復が苦手。だから“修復指令”を運ぶPRPやエクソソームが理にかなうのです。
2 PRPとは?血小板パワーで炎症を鎮める
2-1 作り方とステップ
ステップ | 内容 | 時間 | ポイント |
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① 採血 | 20-30 mL | 5分 | 空腹で来院すると採血がスムーズ |
② 遠心分離 | 3,000 rpm×5-10分 | 1週間 | 血小板濃度は4-6倍が目安 |
③ PRP抽出 | 上澄みを回収 | 1週間 | 白血球混入量で炎症度が変わる |
④ 注射 | 超音波ガイド下 | 5分 | 痛みは通常インフルエンザ注射程度 |
2-2 どんな成長因子が働く?
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PDGF:コラーゲン合成を促し、微小血管を増やす。
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TGF-β:軟骨細胞の分裂を刺激し、炎症もブロック。
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VEGF:血管を呼び込み修復細胞の搬入路を作る。
アナロジー:PRPは“現場監督を呼び集めるホイッスル”。音(成長因子)を聞いて修復職人(線維芽細胞)が集合し、足りない部材(コラーゲン)を補充します。
2-3 エビデンス最前線(2024-2025)
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RCT 18本のメタ解析:ヒアルロン酸と比較し WOMAC(膝のスコア)は合計10-15% 改善。
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濃度別解析:血小板濃度が上がるほど効果が頭打ちとなってしまう→ “血小板濃度が高すぎてもダメ” との報告。
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回数解析:2-3回投与 が単回より痛みはより改善した。
2-4 PRPのメリットと注意点
メリット | 注意点 |
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自己血でアレルギーほぼゼロ | 採血が苦手な人は要相談 |
外来30分、ダウンタイム短い | 効果は半年~1年で漸減 |
費用3-10万円/回で再生医療では安価 | 重度OAでは効果が薄いことも |
3 幹細胞培養上清液〈エクソソーム〉とは?細胞を入れない再生医療
3-1 作製プロセス
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ドナー幹細胞をラボで培養
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72-96時間で分泌されるサイトカイン+エクソソーム を上澄みから回収
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フィルター滅菌・タンパク質定量 → 低温輸送でクリニックへ
3-2 エクソソームが膝に届くまで
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直径30-150 nmの “超ミニ宅急便” にマイクロRNAや成長因子を格納。
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血流→滑膜→軟骨細胞に取り込まれ、炎症遺伝子をオフ&軟骨合成遺伝子をオン。
たとえ話:細胞が工場、エクソソームは製品を運ぶ“ドローン”。必要な部品を壊れた道路(炎症部位)に運び、道路工事(修復)を助けます。
3-3 臨床データ
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Phase I/II試験(韓国 2024):KL I-IIIのOAに3回注射し 6か月でVAS −42 mm。
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前向きコホート(スペイン 2025):PRP不応例40名に上清液2回→3 か月で WOMAC −25%。
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メタ解析(medRxiv 7試験):痛み効果量0.60(中等度)。フォローアップ1年超はデータ不足。
3-4 メリットと注意点
メリット | 注意点 |
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採血不要→高齢者・抗凝固薬でもOK | 自由診療30-80万円/クール |
細胞を入れず腫瘍化リスク極小 | 製剤ごとに成分差→比較困難 |
炎症抑制+軟骨再生を同時に狙える | 長期(2年以上)の安全性は追跡中 |
4 PRPとエクソソーム、どう選ぶ?
4-1 フローチャート
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KL I-II & 痛みVAS<60 mm → まず PRP×2-3回
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KL II-III or PRP効果不足 → エクソソーム追加
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KL IV & 日常生活困難 → 手術+術後サポートにエクソソーム
4-2 併用はアリ?
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理論:PRPが“炎症の火消し”、エクソソームが“再開発”。
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パイロット試験:PRP後6週でエクソソーム注射すると 痛み改善1.3倍。
4-3 費用と時間で比較
項目 | PRP | エクソソーム |
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採血 | 必要 | 不要 |
治療回数 | 2-3回/クール | 3回/クール |
1回の施術時間 | 約30分 | 約20分 |
費用目安 | 3-10万円 | 30-80万円 |
効果持続 | 6-12か月 | 9-18か月(推定) |
5 施術当日の流れとダウンタイム
時間 | 流れ | 患者さんがやること |
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8:30 | 受付・バイタル測定 | 前日の飲酒は控える |
8:45 | PRP採血 or 上清液解凍 | リラックスして腕を出す |
9:00 | 遠心分離(PRPのみ) | 雑誌・動画で待機 |
9:15 | 超音波ガイド注射 | 深呼吸し力を抜く |
9:30 | 歩行確認・帰宅 | 48時間は激しい運動NG |
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アイシング:5分×3回/日
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可動域ストレッチ:痛みの出ない範囲で10回×3セット
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大腿四頭筋トレ:椅子スクワット10回×3セット/日(48時間以降)
6 症例紹介:PRP+エクソソームでフルマラソン復帰
項目 | 内容 |
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患者 | 52歳男性・福井市在住 |
既往 | KL II/BMI24/月120 kmランナー |
治療 | PRP2回→3か月後エクソソーム1回 |
結果 | VAS 70→20 mm、WOMAC 52→20 |
活動 | 6か月後フルマラソン完走(4:05) |
7 よくある質問(Q&A)
Q:どれくらいで痛みが取れる?
A:PRPは1-4週、エクソソームは2-6週で自覚的改善が多いです。
Q:糖尿病でもできますか?
A:HbA1c7.0未満が推奨。血糖コントロールが悪いと効果が落ちる報告があります。
Q:再注射はいつ?
A:症状が戻ったらPRPは6-12か月後、エクソソームは9-18か月後が目安。
Q:副作用は?
A:注射部の腫れ・熱感が1-3日。感染は1万例で1例以下。
Q:保険は使える?
A:2025年5月現在どちらも自由診療。ただし医療費控除で所得税還付は可能です。
8 参考文献
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Filardo G, et al. Platelet-Rich Plasma in Knee Osteoarthritis: RCT Update 2024.
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Li X, et al. Exosome-Based Therapy for Osteoarthritis: Systematic Review. 2025.
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日本整形外科学会.『変形性膝関節症診療ガイドライン2024』.
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Zhang H, et al. PRP plus Exosome Hybrid Approach Improves Pain Score: Prospective Study 2025.
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Kim Y, et al. Safety of Allogeneic Exosome Injection in Knee OA: Phase I Trial. 2024.
まとめ
✔️ PRP は“炎症の火消し”で 半年-1年の痛み軽減 が期待。
✔️ エクソソーム は“遺伝子指令の宅急便”で 炎症抑制+軟骨再生 を同時に狙える。
✔️ 選び方のコツ:早期OA→PRP、PRP不応 or 中期OA→エクソソーム、重度OA→手術+補助療法。
✔️ 費用・ダウンタイム・安全性 を総合的に判断し、主治医と二人三脚で “痛みゼロの生活” を取り戻しましょう。