■ はじめに
「最近ひざが痛い…」「階段の上り下りがつらい…」そんな悩みを抱えていませんか?
今回は、そんなひざのトラブルに悩む方へ向けた、いま注目の再生医療「PRP治療」について、最新の研究結果を交えながらわかりやすく解説していきます。
■ ひざの痛み、その正体は「変形性膝関節症」かも?
私たちのひざ関節は、年齢とともに少しずつすり減っていきます。特に中高年以降になると、「変形性膝関節症(OA)」という疾患が増加します。
実際、日本国内では45歳以上の約20%が膝OAにかかっていると言われており、高齢社会においては非常に身近な疾患となっています。
症状は主に以下のようなものです:
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階段を降りるときの痛み
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膝の腫れや熱感
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正座やしゃがみこみがつらい
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歩行距離の減少
このような痛みの原因には、半月板の損傷やすり減りが関係していることもあります。
■ 半月板って何?
膝の中には、「半月板(medial/lateral meniscus)」という軟骨に似たクッションがあります。これは膝関節に加わる衝撃を吸収し、関節の安定性を保つ重要な構造物です。
しかし、半月板には「血流がある外側」と「血流のない内側」があり、内側(無血管領域)は傷ついても自己修復が難しいという特徴があります。これが、膝OAの進行を加速させる要因のひとつです。
■ PRP治療とは? 〜自分の血液で治す再生医療〜
PRPとは、「Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)」の略で、患者自身の血液から血小板を多く含む血漿成分だけを取り出したものです。
このPRPには、以下のような成長因子(グロースファクター)が豊富に含まれています。
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PDGF(血小板由来成長因子):血管新生や細胞増殖を促す
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TGF-β(トランスフォーミング成長因子):軟骨形成をサポート
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VEGF(血管内皮成長因子):組織の血流改善を助ける
これらの働きにより、PRPは「痛みの軽減」「炎症の抑制」「組織の再生促進」が期待されています。
■ どのようにPRPを使うの?
① 採血(約36〜40mL)
② 外部作成施設に送り、PRPを作成する
③ 約3週間でPRPは完成し、院内に到着する。
④ PRPを注射で患部に注入(関節内、または半月板部位)
この治療は数分で終わり、入院は不要。入院が不要というのが最も利便性が高い理由と考えます。副作用が少なく、ダウンタイム(いったん痛くなる時期)も短いのが特徴です。
■ 【基礎研究】PRPの力を動物実験で検証
岐阜大学の研究では、ミニブタの膝に人工的な半月板損傷を作成し、そこにLP-PRPを注入して、組織修復効果を観察しました。
12週間後の組織評価では、治癒に向けたポテンシャルは認められたとされています。
この結果から、今後のPRPの濃度調整や投与タイミングの最適化によって、効果がさらに高まる可能性があると考えられています。適切なタイミングや適切な位置に駐車することが非常に大事になってきます。
■ 【細胞実験】PRPが細胞を元気にする!
この研究では、滑膜や半月板から採取した細胞にPRPを添加したところ、以下のような細胞反応が観察されました:
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細胞の増殖率が上昇(Cell Counting Kit-8にて確認)
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移動能力の増加(Oris Cell Migration Assayで測定)
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軟骨や脂肪への分化能力も確認(CD44/CD90/CD105陽性)
つまり、PRPは関節内の細胞を活性化し、修復に向けた環境を整えるという大切な役割を果たしていると考えられます。
■ 【臨床研究】人の膝でPRPは効果があるのか?
次に紹介するのは、実際に人を対象とした臨床試験です。
戸田整形外科リウマチ科クリニックでは、膝OA患者39名に対し、PRPを2週間おきに2回注射。その効果を12週間後にLequesne重症度指数で測定しました。
● 主な結果:
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痛みスコアは平均3.3 → 1.9へ改善
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歩行スコアは平均3.6 → 2.8へ改善
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身体機能スコアは平均4.3 → 3.5へ改善
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総合点:平均11.1 → 8.2点(約26%の改善)
● 効果のある人の特徴は?
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半月板逸脱(飛び出し)が短い人ほど効果が高かった
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年齢・BMI・罹患年数とは有意な関連なし
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性別やOAの重症度(K-L分類)でも大きな差は見られなかった
この結果から、「半月板がまだ大きく変形していない段階でPRP治療を始めること」が重要だと考えられます。半月板が逸脱といい、関節から外にでた状態となると心配ですね。
■ ヒアルロン酸注射との違いは?
PRPとよく比較される治療が、保険適用でもある「ヒアルロン酸(HA)注射」です。
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HA:潤滑剤として関節内の摩擦を減らす
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PRP:組織の再生そのものを促進する
同研究では、PRP注射の方がHA注射よりも高い改善率を示すケースが63.9%ありました。
特に「HAで効果が薄かった人」にPRPが新たな選択肢となることが示唆されています。
■ PRP治療は誰に向いているの?
タイプ | PRP治療との相性 |
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軽度〜中等度の膝OA | ◎ 非常に高い効果が期待 |
手術を避けたい人 | ◎ 身体への負担が少ない |
ヒアルロン酸で改善しなかった人 | ○ 有力な代替手段となる |
スポーツを継続したい人 | ◎ 回復を早め再発予防にも期待 |
半月板が大きく逸脱していない人 | ◎ 明確に改善効果あり |
■ 注意点と今後の展望
PRP治療にはいくつかの注意点もあります。
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保険適用外:自由診療のため、費用はクリニックによって異なります(おおよそ1回~13万円程度)
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重度のOA(変形進行、骨同士が接触している状態)には効果が限定的
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治療効果には個人差あり
ただし現在、保険適用化に向けた研究や臨床報告も増えており、今後の医療の「標準治療」として採用される可能性も十分にあります。
■ まとめ:PRPはひざ痛の新しい光
再生医療の力を使って、「手術以外の方法で痛みを改善したい」「もっと活動的な生活を送りたい」という方にとって、PRP治療はまさに“希望の選択肢”です。
科学的根拠に裏付けされた治療法として、今後も注目が高まっていくでしょう。
🔍 参考文献
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科研費研究報告「PRPを用いた半月板修復治療の開発」
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戸田佳孝『変形性膝関節症に対するPRP注射の効果と半月板逸脱との関係』(日関病誌, 2020)
📝 ご相談は専門医へ!
もしあなたやご家族がひざの痛みで悩んでいるなら、一度PRP治療を取り扱う整形外科へ相談してみるのも一つの方法です。
将来、“自分の血で自分を治す”医療がもっと身近になるかもしれません。