はじめに
「朝起きた瞬間、膝がこわばって痛い」
「寝ている間に膝が痛んで目が覚めた」
——そんな経験はありませんか?——
日中には気にならないのに、朝だけ膝の痛みを感じるという場合、関節に何らかの問題が起きているサインかもしれません。
この記事では、朝起きたときに膝が痛む主な原因として知られる「変形性膝関節症」や「関節リウマチ」について、医師の見解をもとにわかりやすく解説します。さらに、従来の治療に加えて注目されている「再生医療」の可能性についてもご紹介します。
朝起きて膝が痛む原因とは?チェックリストで確認
寝起きに膝が痛むとき
まずは以下の項目に当てはまるかチェックしてみましょう:
⬜︎ 50歳以上である
⬜︎ 急激な体重増加や肥満傾向
⬜︎ 膝に腫れや熱感がある
⬜︎ 歩き始めに膝が痛む
⬜︎ 膝が深く曲げづらい
⬜︎ 膝を酷使するスポーツ歴がある
⬜︎ 寝ているときも膝が痛む
これらに複数当てはまる場合、「変形性膝関節症」や「関節リウマチ」といった疾患の可能性が考えられます。特に朝だけでなく、就寝中にも痛みがある場合は、早期の医療機関受診をおすすめします。
変形性膝関節症とは?
主な特徴と症状
変形性膝関節症は、主に加齢や体重の増加に伴い、膝関節の軟骨がすり減っていくことで発症します。痛みやこわばり、膝の動きの制限が徐々に強くなり、歩行障害(跛行)を呈するのが特徴です。特に中高年以降の人に多く見られる慢性の関節疾患です。発症リスクは女性の方が男性よりも約2倍、発症するリスクがあると言われています。肥満、遺伝、O脚、外傷歴、重労働やスポーツ歴などが発症リスクを高めます。
診断と治療
初期はレントゲン検査で関節の隙間(関節裂隙)の狭小化や骨棘(こつきょく)などの変化が確認されます。一般的に重症度はKellgren-Lawrence分類に基づき、診断されます。
◆ 重症度分類(Kellgren-Lawrence分類)
グレード |
特徴 |
---|---|
0(正常) |
異常なし |
1(疑い) |
軽度の骨棘 |
2(軽度) |
明確な骨棘、関節裂隙の狭小化 |
3(中等度) |
中等度の骨棘と狭小化、骨硬化 |
4(重度) |
著明な骨棘、関節裂隙消失、変形 |
治療は、以下のような対症療法が基本です:
-
消炎鎮痛薬(ロキソニン、カロナールなど)
-
関節内ヒアルロン酸注射
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軽度な筋力トレーニング
-
サポーターの使用
-
手術(進行した場合の人工関節置換)
日常でできる予防と対処法
-
体重管理:体重が1kg増えると膝に約3kgの負荷がかかると言われており、適正体重の維持は非常に重要です。
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靴の見直し:クッション性に乏しい靴やサイズが合わない靴は膝に負担をかけます。
-
運動習慣:膝周りの筋肉を維持することで関節の安定性が保たれます。特に太ももの前側(大腿四頭筋)のトレーニングは効果的です。
- サポーター:膝関節を安定させ、不安定性が原因の痛みを軽減させます。一般的にはソフト サポーターや支柱付き膝サポーターなど種類があり、身体状況に応じて使い分けを行います。
関節リウマチとは?
自己免疫疾患としての特徴
関節リウマチは、自己免疫反応によって全身の関節に炎症を引き起こす慢性疾患です。手足の小さな関節から始まり、朝のこわばりが典型的な症状とされています。日本では約70〜100万人が罹患しているとされており、30〜50代の女性に多いのが特徴です。現在、正確な原因は不明ですが、遺伝、環境因子、ホルモンバランスの乱れが関与していると考えられています。
診断と治療
診断には以下のような検査が用いられます:
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血液検査(リウマトイド因子、抗CCP抗体など)
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レントゲンまたはMRIでの関節損傷の評価
治療は自己免疫の異常を抑える「免疫調整薬(メトトレキサートなど)」が中心になります。
対処法と注意点
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食生活の改善(脂質や糖質の過剰摂取を避ける)
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禁煙(リウマチの発症や悪化リスクを高めるため)
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関節の保温(冷えによる炎症悪化を防ぐ)
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安静(過度な使用を避ける)
再生医療という新たな選択肢
最近では、従来の薬物療法に加えて、「再生医療」による治療も注目を集めています。
特に変形性膝関節症においては、以下のような方法が存在します。
PRP療法(多血小板血漿)
患者自身の血液から「血小板」が豊富な部分を抽出し、膝関節に注射することで、組織の修復や炎症の軽減を促す治療です。
PRPは軟骨や靭帯、筋肉の修復を助け、炎症による痛みを和らげるとされています。副作用が少なく、比較的安全性が高いのも魅力です。
エクソソーム療法
エクソソームは、幹細胞などの細胞から分泌されるナノサイズの情報伝達物質(直径30〜150nm)です。成長因子、miRNA、タンパク質などが含まれており、炎症の抑制、組織修復、免疫調整などの効果が報告されています。
軟骨細胞に直接働きかけて再生を促進し、関節内の炎症環境を正常化し痛みや腫れを抑える効果があります。
骨髄や臍帯から採取した幹細胞を培養した際に得られる上清液に含まれるエクソソームを患部に注入し、組織の回復を促します。
再生医療は、根本治療に近づく可能性を秘めた選択肢であり、保存療法や手術の「間」を埋める治療法として非常に有望です。
寝起きに膝が痛むときのセルフケアまとめ
痛みを感じたときの対応として、以下の3つが有効です:
-
体重管理:急激な体重増加を避ける。
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筋トレとストレッチ:膝周囲の筋肉を維持し、関節の安定性を保つ。
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アイシング:膝周りに熱感や腫脹を認める場合に実施してください。
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専門医の受診:長引く痛みや左右差がある痛みは早期診断が重要です。
迷ったらまずは医療機関に相談を
「朝だけの痛みだから様子を見よう」と放置していると、進行性の疾患だった場合に対処が遅れてしまいます。気になる方は整形外科または膠原病内科などの受診を検討しましょう。
早めの治療が将来を大きく左右する可能性があります。小さなサインを見逃さず、今できる一歩を踏み出し、未来の自分の身体を守っていきましょう。
まとめ
寝起きに膝が痛むという症状は、加齢や生活習慣だけでなく、変形性膝関節症や関節リウマチといった疾患が背景にあることもあります。
症状に心当たりがある場合は、体のサインを見逃さず、適切なセルフケアと早期の医療相談を心がけましょう。
そして、新たな治療選択肢として「再生医療」も視野に入れることで、将来の生活の質(QOL)を高める一歩となるかもしれません。
参考引用文献
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