アキレス腱断裂の治療に革新をもたらす―PRP療法の可能性

1. アキレス腱って切れるとどうなるの?

こんにちは!さくら通り整形外科クリニック院長の宇賀治 修平です。

今日は「アキレス腱断裂」についてのお話をしていきたいと思います。

アキレス腱は踵のちょっと上、ふくらはぎの筋肉と、踵の骨を繋いでいるとても強くて太い“ひも”のようなものです。このアキレス腱、ジャンプやダッシュをしたときに、強い力が急に加わると切れてしまうことがあります。このことをアキレス腱断裂と呼んでいます。

特に30〜50代の男性に多い怪我ですが、部活をしている中高生でも、激しいスポーツや無理な動きをしたときに起こることがあります。切れると、足がうまく動かせなくなって、つま先立ちもできなくなってしまいます。運動会シーズンになると久しぶりに運動したお父さんや、きちんとアップを行わなかったお父さんにもよく起きますね。

治すためには、手術で腱を縫い合わせることがよく行われますが、治ったように見えていても、元のように動けるようになるには時間がかかってしまいます。


2. 再生医療ってなに?PRPってすごいの?

最近、“再生医療”という言葉を聞くことが増えてきたと思いませんか?

これは、体の中にある「治す力」を利用して、怪我や病気を治そうという考え方です。

その中でも、今注目されているのが“PRP”という治療法です。

PRPとは「Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)」の略で、自分の血液をちょっとだけ採って、遠心分離機でぐるぐると回すことで、血小板という治癒に影響を与える成分だけを取り出したもののことです。

この中には、

  • 血小板:怪我をしたときにかさぶたを作る成分

  • 成長因子:細胞に「もっと働け!」と命令を出す物質

など再生に働く物質がたくさん入っています。

PRPをけがをした部分に注射するだけで、治るスピードが速くなったり、動きやすくなったりすることが近年、分かってきました。


3. 本当に効果はあるの?科学的に調べた研究

ここからが今回の本題です。

中国の研究グループが、PRPを使ったアキレス腱の手術について綿密に調べた研究を発表しました。

🔬研究のやり方

  1. アキレス腱が切れた患者さんを集めて、2つのグループに分けました。

    • PRPありグループ:手術したあとにPRPを注射したグループ

    • PRPなしグループ:手術だけをしたグループ

  2. 3ヶ月後、6ヶ月後、1年後、2年後にそれぞれの筋力や足の動き、生活の質(QOL)を調べました。

    〈評価方法〉

    • 等速性筋力

    • 足関節の可動域(ROM)

    • ふくらはぎ周囲長

    • Leppilahtiスコア(アキレス腱断裂後の機能評価)

    • SF-36スコア(生活の質評価)

     

    上記の評価項目を用いてPRPの治療効果を検証しました。

📈研究の結果はこうでした!

表1.PRP治療の効果比較表(アキレス腱断裂修復術後)

評価項目 PRP群 対照群 PRPの効果まとめ
等速性筋力(3ヶ月) ◎ 明らかに良好 △ やや劣る 筋力回復が早い
Leppilahtiスコア(6ヶ月) ◎ 有意に高い △ やや低い 機能スコアが高い
Leppilahtiスコア(12ヶ月) ◎ 有意に高い △ やや低い 継続的に良好な機能
SF-36スコア(6ヶ月) ◎ 有意に高い △ やや低い QOL(生活の質)が向上
SF-36スコア(12ヶ月) ◎ 有意に高い △ やや低い より良い日常生活
足関節可動域(24ヶ月) ◎ 改善あり △ 可動域制限あり 柔軟な足関節運動が可能
  • 3ヶ月後:PRPを使った人の方が、等速性筋力の項目が明らかに改善し、筋力が早期改善が実証 されました!

  • 6ヶ月〜1年後:Leppilahtiスコア(アキレス腱断裂後の機能評価)、SF-36スコア(生活の質評価)の項目で有意な数値を示し、生活の質が高くなり、スポーツや仕事に早期復帰できたことを実証しました。!

  • 2年後:足関節の可動域(ROM)が有意に改善し、足首の動きがスムーズで、柔らかく使えるようになっていました。これは、PRPが腱組織の瘢痕化を抑え、柔軟性を保持した修復を促進したことを証明しています!

つまり、PRPを使った方が「早く、機能的に、元通りに」なりやすかったということなんです。


4. 他にもPRPはどんな怪我に使えるの?

PRPはアキレス腱だけじゃなくて、いろんなスポーツの怪我や関節の痛みにも使われています。

例えば:

  • 肘の「テニス肘(外側上顆炎)」

  • 膝の「変形性膝関節症(ひざがすり減って痛い)」

  • 肩の「腱板損傷(けんばんそんしょう)」

  • 足の裏の「足底腱膜炎(そくていけんまくえん)」

こういう怪我に悩んでいるプロのスポーツ選手にも、PRPはよく使われています。

世界で活躍するサッカー選手や野球選手も、PRPを使って早く復帰したというニュースをよく見かけます。


5. すごい治療法なのに、なぜまだ広がっていないの?

PRPはたしかにすごい治療法ですが、まだ課題もあります。

課題1:作り方にバラバラな部分がある

PRPの作り方は、病院によって違う場合があります。どのくらいの濃さが一番いいのか?

白血球は入れるべきか?など、「正解」がまだはっきりしていないのです。

当クリニック(さくら通り整形外科クリニック)では最新の情報を常にアップデートしていき、最も効果的と言われているものをご提供させていただいております。

課題2:自由診療でお金がかかる

PRPは、日本では今のところ健康保険が使えません。なので、1回の治療に数万円〜十数万円かかることもあります。今後、もっとデータがそろえば、保険で使えるようになる可能性もあります。

ちなみに、当クリニック(さくら通り整形外科クリニック)では自由診療としてPRP治療を行っています。当院ではカウンセリングもしておりますので、ご興味のある方はぜひ、一度、受診してお話しだけでも聞いてみてください。

再生医療の無料カウンセリングをご希望の方は、以下のバナーからお申し込みできます。

あなたにとって最適な選択を、一緒に考えていきましょう。


6. PRPの未来と、僕たちにできること

PRP療法は、自分の体を使って自分を治すという、とても“やさしい”治療法です。

しかも、切除したりする手術ではないので、体への負担も少ないのが特徴です。

今回の研究でも、アキレス腱の手術をした人がPRPを使うことで、

  • より早く運動ができるようになる

  • よりスムーズに歩けるようになる

  • 生活の満足度が上がる

ことが示されました。

これから医療の現場で、もっとたくさんの人にこの方法が使われるようになると、怪我からの「復活」が早くなるかもしれません。

PRPのような再生医療は、これからの未来を変えるかもしれない最先端の分野です。「怪我をただ治す」だけじゃなく、「もっとよく、早く、元通りに」できるようになるために、たくさんの人が研究や治療に取り組んでいます。

🔍参考引用文献

  • Zou J. et al. (2016). A Prospective Study of Platelet-Rich Plasma as Biological Augmentation for Acute Achilles Tendon Rupture Repair. https://doi.org/10.1155/2016/9364170

  • Keene DJ et al. (2019). PRP therapy for tendon injuries. Am J Sports Med.

  • 厚生労働省 再生医療に関するガイドライン(2024年版)

  • 日本整形外科学会:PRP治療に関する提言

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