痛みゼロを目指す!PRPとエクソソーム膝再生医療徹底比較

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はじめに

変形性膝関節症(OA)は全国でおよそ一千万人が悩む「国民病」です。階段や正座のたびに生じる鈍い痛みは、仕事や趣味だけでなく家族との日常までも奪いかねません。従来はヒアルロン酸注射、鎮痛薬、最終手段として人工膝関節置換術という三段階が一般的でした。

しかし近年、その「空白地帯」を埋める保存的かつ再生志向の治療として PRP(多血小板血漿)幹細胞培養上清液〈エクソソーム〉 が台頭し、世界各国で臨床試験が進んでいます。本稿では最新エビデンスを踏まえ、両者の仕組み・効果・費用・リスクを徹底比較し、これを読まれた方がご自身の膝に最適解を導けるようガイドします。

1 膝の痛みはこうして始まる

1−1 軟骨の摩耗と炎症ループ

膝関節の骨端を覆っている硝子軟骨というものは、スポンジのように水分を含むことで、衝撃を吸収しています。ところが加齢や肥満、過度のスポーツで軟骨表面に微細な亀裂が入ると、剥がれた破片が関節液に漂ってしまい 滑膜 を刺激します。すると滑膜細胞が IL-1β や TNF-α といった炎症サイトカインを放出し、軟骨分解酵素(MMP-13)が活性化。軟骨はさらに薄くなり、炎症ループが加速します。

1−2 骨棘と配列の破綻

関節隙が狭まると荷重線が内側に偏移し、脛骨内側の皮質骨が硬化。身体は不安定さを補うため余分な骨(骨棘)を形成し、O脚が助長されます。こうして「痛み→変形→さらに痛み」という負のスパイラルが完成するのです。

2 PRP療法――血小板が持つ“救急箱”

2−1 製造ステップ

  1. 採血:20–30 mL を静脈から採取

  2. 遠心分離:3,000 rpm×10 分で血小板を4–6倍に濃縮

  3. 抽出:白血球混入量を調整し最適化 2,3で2−3週間の期間を要します。

  4. 注射:超音波ガイド下(必須!!)に膝関節腔へ 注入します!

2−2 成長因子カクテル どんないい物質が含まれているか

  • PDGF:線維芽細胞を呼び寄せコラーゲンを合成

  • TGF-β:軟骨細胞が作られるのを促進

  • VEGF:小さい血管を新生し局所代謝を改善

2−3 臨床効果

2024年のメタ解析(RCT:18本の論文、1,498例)では VASという痛みのスケールで 22改善 、ヒアルロン酸単独比で 12改善と 。効果は投与後 6–12 か月持続し、2–3回コースが単回より優位でした。

*RCTとはランダマイズドコントロールスタディの略で最も研究の価値がある論文のことを指します。

2−4 メリット/デメリット

長所 短所
自己血使用で安全性高い 重度OAには効果限定的
外来30分・ダウンタイム1–2日 採血が必須
1回8–15万円と再生医療では安価 効果は半年〜1年で低下

3 幹細胞培養上清液(エクソソーム)――細胞を入れない再生医療

3−1 どのように作るか

人や自分の間葉系幹細胞という何にでもなる細胞を無血清培地で72時間培養する(増殖させる)と、分泌液中に エクソソーム(30–150 nm)が大量に放出されます。これを超遠心、フィルター滅菌、タンパク質濃縮で製剤化し、凍結保存したものを治療に使用します。施術直前に解凍し 関節の中に注入します。

3−2 作用機序

エクソソームは“遺伝子スイッチ”を運ぶナノカプセルです。内部の遺伝情報が炎症経路であるNF-κBという物質を抑制して、軟骨合成経路(SOX-9, COL2A1)をオンにする(軟骨を修復するスイッチをオンにする)ことで 炎症抑制+軟骨修復 を同時に実現します。

3−3 エビデンス概観

韓国の試験(2024)は膝末期患者以外に3回注射し 痛みのスコアVASの 27 ポイントの軽減、有害事象なしと報告されました。また、2025年スペイン前向きコホートでは PRP不応例の60 %が追加改善し、痛みスコアが平均 −30 %。メタ解析7試験では効果量0.60(中等度)と優れた結果が報告されています。追跡最長は18 か月なので、まだまだこれからの研究という論文でした。

3−4 メリット/デメリット

長所 短所
採血不要、高齢者・抗凝固薬でも実施可 1クール30–80万円と高額
細胞を残さず腫瘍化リスク極小 製剤間で成分差、品質見極めが難しい
炎症と再生を同時改善 長期(2年以上)安全性は継続検証中

4 痛み改善率と持続期間を直接比較

4−1 痛み改善率

統合データでは PRP 42 %エクソソーム 55 %。エクソソームの方がやや優れていそう。

4−2 持続期間

PRP 6–12 か月、エクソソーム 9–18 か月。両者とも外科手術と比べれば低侵襲だが、永続的ではないため定期的な評価が必要です。

5 患者タイプ別アルゴリズム

  1. 早期OA(KL I–II、VAS<60):PRP×2–3回+運動療法

  2. 中期OA(KL II–III、VAS≥60):PRPで炎症を鎮火→残存痛にエクソソーム追加

  3. 高齢・抗凝固薬内服・全身状態不良:エクソソーム単独を第一選択

  4. KL IVまたはX線で骨と骨が接触:骨切り術・人工関節を検討し、周術期サポートとしてエクソソーム

6 費用対効果シミュレーション

治療 想定費用 平均痛み改善期間 1カ月当たりコスト
PRP 3回 24万円 9 か月 約2.7万円
エクソソーム3回 60万円 15 か月 約4.0万円
PRP→エクソソーム併用 72万円 18 か月 約4.0万円

7 症例レポート

52歳男性ランナー(KL II、VAS 70 mm)。PRP2回でVAS 40 mmに低下後には頭打ちとなり、もう少しチャレンジしたいとのことでした。エクソソームを1回追加し3 か月後 VAS 20 mm、半年でフルマラソンを4時間5分で完走。副作用はありませんでした。本人さんも非常に満足されておられました。

8 Q&A

Q:同日に併用するとどうなる?
A:pH変化でエクソソーム膜が不安定になる可能性があるため、原則2–4週間空けます。

Q:糖尿病は禁忌?
A:HbA1c 7.5%以上では感染・効果低下リスクが報告されています。コントロール後の施術が推奨されています。

Q:再投与回数に上限は?
A:PRPは年4回、エクソソームは年2回までを目安にする施設もありますが、原則PRPは貧血がない、エクソソームに関しては毎日打たない限りは問題ないと考えています。

Q:MRIで軟骨が増えるの?
A:PRP単独では難しいが、エクソソームでは軟骨の改善例が報告されています。まだまだ少ないデータですが、希望が見られます。

9 術後セルフケアを極める

9−1 48時間ルール

施術後48時間は関節内の浸出液が増えやすいため、過負荷は厳禁です。アイシングは保冷剤をタオルで包み5分冷却・10分休憩を3セット。

9−2 1週間から始める可動域訓練

✔️ヒールスライド:仰向けで踵をお尻に寄せ10回×3

✔️タオルストレッチ:膝を伸ばして30秒キープ×3

9−3 筋力トレーニングは2週目から

椅子スクワット→レッグエクステンション→ゴムバンド外転の順で負荷を漸増。大腿四頭筋を10 %強化すると膝荷重が約0.5 MPa減るとの報告があります。

10 将来展望

日本再生医療学会は J-Exo2025 規格でエクソソーム品質を標準化中。PRPとエクソソームを同梱した「デュアルコンポーネント製剤」の臨床試験も始まり、近い将来“一度の注射で炎症鎮静と軟骨再生”が現実になる可能性があります。

11 参考文献

  1. Zhang H, et al. Meta-analysis of PRP vs HA in Knee OA (2025)

  2. Li X, et al. Systematic Review: Exosome Therapy in OA (2025)

  3. Filardo G, et al. PRP Randomized Trial Update (2024)

  4. Kim Y, et al. Allogeneic Exosome Phase I Safety Study (2024)

まとめ

✔️PRP は炎症フェーズに速効、低コスト。
✔️エクソソーム は遺伝子レベルで修復を促し、痛み改善率と持続期間で優勢。
✔️病期・年齢・経済性を総合判断し、主治医と相談して最適プランを選びましょう。

本稿が皆さまの治療選択の一助となれば幸いです。痛みのない未来を一緒に目指しましょう。

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