はじめに

「膝の軟骨がすり減っていますね」と整形外科で言われたことはありませんか?
それを聞いて不安になったり、「放っておいたらどうなるんだろう…」と心配になった方も多いのではないでしょうか。
今回は、膝軟骨がすり減るとどうなるのかという素朴な疑問にお答えすると同時に、今話題の再生医療(PRP療法・エクソソーム療法)についてもわかりやすく解説します。
■ そもそも軟骨ってどんな役割?
膝関節には「関節軟骨」と呼ばれるクッションのような組織があります。
この軟骨は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)が直接ぶつからず、スムーズに動くために欠かせない存在です。
しかし、この軟骨は加齢や過度な負荷、怪我などの影響によって徐々にすり減っていきます。
残念ながら、軟骨は血流が乏しく、一度損傷すると自然にはほとんど再生しません。
■ 軟骨がすり減るとどうなるの?
① 痛みの原因は「炎症」
実は、軟骨そのものには神経がありません。
つまり、削れても直接的な痛みはないのです。
ではなぜ膝が痛むのでしょうか?
原因は、削れた軟骨片が関節の内側を覆う「滑膜(かつまく)」を刺激して、炎症(滑膜炎)を引き起こすからです。これによって関節液が増え、腫れ、熱感、そして痛みが生じます【1】。
② 骨同士がぶつかり合い、変形する
軟骨がすり減ると、骨同士がこすれ合うようになります。これにより、次のような症状が現れてきます。
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骨棘(こつきょく):骨の端にできるトゲのような突起。これが関節の動きを邪魔します。 
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O脚やX脚の進行:片側だけ軟骨が減ると、膝の角度が変わり、脚のラインが崩れていきます。 

このような変形は数ヶ月、数年かけて進行するため、気づいたときにはかなり悪化していることも少なくありません【2】。
③ 日常生活の動作がつらくなる
⬜︎ 椅子から立ち上がるのがつらい
⬜︎ 歩いていると膝が重い・だるい
⬜︎ 階段の昇り降りが怖くなる
⬜︎ しゃがむ、正座ができなくなる
⬜︎ 夜中に痛みで目が覚めてしまう
こうした症状は、進行性の変形性膝関節症(OA)の代表的な特徴です【3】。
放っておくと、日常生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
■ 膝軟骨の治療法:昔と今
膝の痛みに対する治療には大きく3つのアプローチがあります:
1. 保存療法(痛みを和らげる)
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ヒアルロン酸注射 
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鎮痛剤や湿布 
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サポーターや装具 
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リハビリ・筋力トレーニング 
これは、軟骨の損傷を回復させる治療ではなく、あくまで“症状を緩和する”目的です。
2. 手術療法(重度の場合)
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関節鏡による処置 
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人工膝関節置換術(TKA) 
特に重症の変形性膝関節症では手術が必要な場合もありますが、「できれば手術は避けたい」と思う方も多いはず。
3. 再生医療という“第3の選択肢”
そこで近年、注目されているのが、再生医療です。
これは、自分自身の細胞の力を活かして、炎症や組織修復を促す治療法です。
特に最近は「PRP療法」と「エクソソーム療法」が注目されています。
■ PRP療法とは?
PRP(Platelet-Rich Plasma)療法は、自分の血液から「血小板を多く含む血漿(けっしょう)」を取り出し、それを関節内に注射する方法です。
血小板には成長因子と呼ばれる組織修復を助ける物質が多く含まれており、痛みを抑えたり、炎症を和らげる効果が期待されています【4】。
特徴:
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自己血液を使うためアレルギーリスクが低い 
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手術不要・日帰りで治療可能 
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ヒアルロン酸注射よりも効果が長持ちするケースもあり 
軽〜中等度の軟骨損傷に適応され、特にスポーツ選手でも多く利用されています。
■ 話題の「エクソソーム療法」とは?
PRPと並び、今もっとも注目されているのがエクソソーム療法です。
エクソソームとは、幹細胞などが分泌する“ナノサイズの情報カプセル”のことです。この中に含まれるタンパク質やRNAなどの情報が、他の細胞にメッセージを伝え、修復や炎症抑制のシグナルを出します【5】。
エクソソームの注目ポイント:
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炎症を抑える作用が強力 
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軟骨の保護や再生の可能性が期待される 
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1回の注射でも長期間効果が持続することがある 
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PRP療法で効果が乏しかった人にも選択されることがある 
また、エクソソームは関節だけでなく、美容医療や脳・肝臓など多領域で研究が進む再生医療の最前線です。
■ まとめ|あなたの「膝の未来」を変える一歩を
膝軟骨のすり減りは、放置すればするほど進行してしまいます。
ただし今は、「保存療法か手術か」という二択ではなく、身体への負担が少ない再生医療という選択肢がある時代です。
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痛みをできるだけ抑えたい 
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まだ手術は避けたい 
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日常生活を楽に送りたい 
そんな方にとって、PRP療法やエクソソーム療法は非常に有力な選択肢になります。
自分に合った治療法を見つけるためにも、まずは専門医に相談し、検査を受けてみることが大切です。
あなたの膝と向き合う「第一歩」が、未来の自由な生活を守るカギになるかもしれません。
◼️参考文献
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日本整形外科学会「変形性膝関節症」 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html 
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東京都健康長寿医療センター研究所「関節軟骨の加齢変化」 https://www.tmghig.jp/research/research/kotsukansetsu/ 
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中井祐一 他「変形性膝関節症の病態と保存療法」臨床整形外科 2020年 
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Andia I, Maffulli N. Platelet-rich plasma for managing pain and inflammation in osteoarthritis. Nat Rev Rheumatol. 2013. 
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Yu B, et al. Exosomes derived from mesenchymal stem cells promote cartilage regeneration. Tissue Eng Part A. 2019. 


 
  
  
  
  