はじめに
「ひざが痛くて歩くのがつらい…」「年齢とともに関節の調子が悪くなってきた…」「注射や手術以外に方法はないの?」
そんなお悩みを持つ方に注目されているのが、PRP療法(多血小板血漿療法)です。
最近ではアスリートだけでなく、ご高齢の方の関節炎にも使われるようになり、再生医療の中でも非常に注目を集めています。
本記事では、PRP療法とは何か、どのような人に向いているのか、最新の研究成果なども含め、一般の方向けにわかりやすく解説していきます。
PRP療法とは?自分の血液を使った“再生注射”
PRPとは「Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)」の略で、自分の血液から血小板を多く含む部分だけを取り出して、関節などの痛みのある部位に注射する治療法です。
血小板には「成長因子」と呼ばれる組織修復を促す成分が多く含まれており、これを利用することで、ケガや炎症のある部位の自然治癒を助けます。
本来、血液の成分は体内で傷を修復する役割を持っています。それを“自分の血液で、自分の体を治す”という考え方が、PRP療法なのです。
もともとはスポーツ選手の靭帯損傷や腱炎などに使われていた治療ですが、現在では変形性関節症など加齢による関節の痛みにも幅広く使われるようになっています。
当院でも多くの方に注射をさせていただいております。
どれくらい効果があるの?最新データで見るPRPの実力
PRP療法の研究において、順天堂大学が盛んに行われており、1年間でおよそ5,000件の注射実績があり、国内最多レベルの治療件数となっています。ここでは順天堂大学での最新の研究について触れていきたいと思います。
年間5,000件の注射実績を行ったことでわかってきたのは、PRP療法はすべての人に効くわけではないということ。
しかし、関節痛の患者さん全体の約60%が改善を実感しており、特に関節の変形が軽度の場合は70%程度と高い効果を示しています。
一方で、すでに軟骨がほとんどなくなっているような重度の方では効果が薄いケースもあり、その場合は50%程度の改善率となっています。
症状の程度 | 効果を実感した割合 |
---|---|
軽度の関節変形 | 約70% |
中等度以上の変形 | 約50% |
全体平均 | 約60% |
また、PRP注射は1回で終わるわけではなく、3回を1クールとして行うのが基本です。注射後すぐに効果が出るというよりは、数週間~数か月かけて徐々に痛みが改善することが多いです。
なぜ効く人と効かない人がいるの?研究から見えたヒント
順天堂大学の研究チームは、PRP療法がなぜ効く人と効かない人に分かれるのかを明らかにするために、500人以上の患者さんのデータを分析しました。
その結果、意外なことが分かりました。
年齢、性別、体重、血小板の数などの“基本情報”は、治療効果とほとんど関係がなかったのです。
では何が関係していたのか?
答えは、血小板の“質”でした。
中でも“未熟な血小板(IPF)”の割合が高い人ほど、治療の効果が高かったという結果が出ています。
つまり、「血が若い=効果が出やすい」といった単純な話ではなく、血小板の中にどんな因子が含まれているかがポイントになっているのです。
PRPはオーダーメイドの時代へ!3種類の注射を使い分け
現在、順天堂大学では以下の3種類のPRPを患者さんの症状に応じて使い分けているそうです。
種類 | 特徴 | 主な適応 |
---|---|---|
① 白血球が少ないPRP | 炎症を抑える | 軟骨のすり減りが原因の関節炎 |
② 白血球が多いPRP | 軽度の炎症で再生を促す | 難治性の腱炎など |
③ 白血球が多く、脱水処理したPRP | 抗炎症効果をさらに高める | 水がたまりやすいひざなど |
PRPと一口に言っても、使い方・作り方によって効果が大きく変わるのです。
今注目の「液性因子」治療とは?細胞ではなく“液”を使う再生医療
さらに研究は進み、幹細胞治療でも注目されている「液性因子(せきせいいんし)」に注目が集まっています。
幹細胞を培養すると、そこから様々な「修復物質」が分泌されます。その液体成分だけを取り出し、治療に使おうという研究が進んでいるのです。
この方法ならば、
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拒絶反応が少ない
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コストが抑えられる
-
保存や品質管理がしやすい
といった利点があり、将来的にはPRPに代わる治療法として期待されています。
それでもPRPには“ナゾ”が残る?
PRPで治療を受けた方の中には、MRIで軟骨が増えているのに痛みが取れない人、逆に軟骨が減っていても痛みを感じない人もいます。
つまり、痛みの原因=軟骨の減少とは限らないのです。
神経の過敏性、炎症物質の存在、筋肉や周囲組織の状態など、多くの要因が関係していると考えられています。PRPがどこにどのように作用しているか、まだ完全には解明されていないのです。
だからこそ、今も多くの研究者が日々研究を重ね、より効果的で安全な治療法の確立に取り組んでいます。
PRP療法の費用と将来の展望
現在、PRP療法は自由診療であり、保険適用外です。
さくら通り整形外科クリニックでは1回の費用が約10万円。治療回数が2~3回となると、20〜30万円前後の負担が必要です。
しかしながら、治療効果と安全性の高さ、そして手術を回避できる可能性を考えると、多くの方にとって魅力的な選択肢となっています。
将来的には、PRPの効果が明確に証明され、保険適用になることが望まれています。そのためにも、今後の研究とエビデンスの蓄積がカギとなるでしょう。
まとめ|PRP療法は「未来の整形外科治療」
PRP療法は、「自分の血液で、自分を治す」新しい医療の形です。
整形外科の分野においては、手術や薬に次ぐ第3の選択肢として注目されており、今後さらに発展していく可能性を秘めています。
当院でも、今後の研究や技術進歩に注目しつつ、患者様にとって最善の治療法を一緒に考えていけるクリニックでありたいと考えています。
「手術は避けたい」「もっと自然な方法で改善したい」という方は、ぜひ一度、さくら通り整形外科クリニックまでご相談ください。
ご希望の方には、カウンセリングや診察でPRP療法が適応かどうかを判断し、丁寧にご説明いたします。
お気軽にお問い合わせください。
🔍 参考資料
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Uchino S, Saita Y, et al. “The immature platelet fraction affects the efficacy of platelet rich plasma therapy for knee osteoarthritis.” Regenerative Therapy 2021; 18:176-181.
https://doi.org/10.1016/j.reth.2021.06.004 -
Saita Y, Kobayashi Y, et al. “Predictors of Effectiveness of Platelet-Rich Plasma Therapy for Knee Osteoarthritis: A Retrospective Cohort Study.” Journal of Clinical Medicine 2021; 10(19):4514.
https://doi.org/10.3390/jcm10194514