はじめに
サッカーやバスケットボール、バレーボールなど、ジャンプや切り返しの多いスポーツをしている中高生に多いケガのひとつが「前十字靱帯損傷(ACL損傷)」です。
ACLは膝の中にある大切な靱帯で、膝関節の安定を保っています。ここを傷めると競技復帰に長いリハビリが必要になり、将来的な膝の障害(半月板損傷や変形性膝関節症)にもつながることがあります。
そこで注目されているのが PRP療法(多血小板血漿療法) です。自分の血液から抽出した「血小板」を膝に注入し、組織の修復を助ける治療法です。
このブログでは、ACL損傷とPRP療法について「保護者の方にも理解できるように」最新の研究を整理していきます。
ACL損傷とは?
ACLは膝の中央にある靱帯で、太もも(大腿骨)とすね(脛骨)をつなぎ、膝が前にずれるのを防いでいます。
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急なストップ
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ジャンプの着地
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急な方向転換
などで損傷することが多く、特に中高生の女子選手に多くみられます。
症状は
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「膝がガクッと外れる感覚」
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強い腫れ
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歩行やジャンプができない
といったものがあります。
多くの場合、手術(ACL再建術)が必要です。その後は半年〜1年ほどのリハビリを経て競技に復帰します。
PRP療法とは?
PRP(Platelet-Rich Plasma)は、自分の血液を採取して「血小板」という成分を濃縮し、膝に注射する治療法です。血小板には「成長因子」と呼ばれる組織修復を促す物質が含まれており、これを利用してケガの回復を助けます。
期待される効果
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移植した腱(再建した靱帯)の「靱帯化」を早める
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骨と腱のくっつきを助ける
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膝の腫れや痛みを軽減する
これらが実現できれば「復帰が早まるのでは?」と期待され、世界中で研究が進められています。
最新研究のまとめ(保護者向けにわかりやすく)
1. 手術後の回復スピードは早まるのか?
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2024年の大規模研究(JAMA Network Open)では、ACL再建手術後にPRPを複数回注射しても、痛みや機能の改善は 通常の治療と変わらなかった という結果でした。
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2025年の最新メタ解析(複数の研究をまとめたもの)でも、患者の満足度や競技復帰スピードに有意差はなかった と報告されています。
→ 結論:PRPを追加しても、リハビリや回復スピードが劇的に変わるわけではなさそう。
2. 画像検査では効果があるかもしれない
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MRIやX線を用いた研究では、PRPを使ったグループで「移植した腱が早く靱帯らしくなる」「骨と腱のくっつきが良い」などの結果が一部で報告されています。
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ただし、画像上の改善が必ずしも「競技への早期復帰」につながるわけではありません。
→ 結論:見た目の治り方は良くても、実際の動きやパフォーマンスに直結するとは限らない。
3. 部分断裂や保存療法には有望?
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完全断裂では手術が主流ですが、「部分断裂」の場合は保存療法(手術をしない治療)も選択されます。
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このケースでは、PRPを使うことで「痛みや膝の安定性が改善した」という報告もあります。
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ただし、研究の数はまだ少なく、結論づけるのは難しい状況です。
→ 結論:部分断裂の子どもにPRPを使うのは期待できるが、まだ十分なデータはない。
4. ドナー部位(腱を取った場所)の痛み
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ACL再建では膝のお皿の下や太ももの腱を移植に使います。この「取り出した場所」が術後に痛むことがあります。
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小規模研究では、PRPを注入したグループで痛みが軽減したという報告があります。
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ただしこれも研究数が少なく、はっきりした効果とは言えません。
現時点でのまとめ
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PRPは魔法の治療法ではない
→ ACL再建後の回復や競技復帰を大きく変えるほどの効果は、まだ証明されていません。 -
一部ではプラスの効果も期待できる
→ MRI所見や部分断裂の保存療法、ドナー部位の痛み軽減などで「良さそう」という結果もあります。 -
まだ研究途上
→ 最新のメタ解析(2025年)でも「有効性は限定的、もっと質の高い研究が必要」とされています。
保護者の方へのアドバイス
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手術やリハビリが基本
PRPを使っても、正しい手術とリハビリが治療の柱です。焦らず段階的に復帰することが最も大切です。 -
PRPは追加オプションと考える
「やったら必ず早く治る」というものではなく、「補助的な治療」として位置づけられています。 -
費用は保険適応外が多い
PRP療法は多くの場合自費診療になります。数万円〜十数万円がかかるため、費用対効果も考える必要があります。 -
信頼できる医師に相談を
治療法は選手の年齢、競技レベル、ケガの程度によって異なります。PRPを検討する場合は、スポーツ整形に詳しい医師に相談してください。
まとめ
PRP療法は「自分の血液を使った再生医療」として注目を集めていますが、ACL損傷に対する効果はまだ限定的です。
手術後の回復を劇的に変えるほどのエビデンスはありませんが、一部のケースでは有望な結果も見られます。
大切なのは、最新の研究結果を冷静に理解し、子どもの競技人生にとって最善の選択をすることです。
もしお子さんがACLをケガしてしまったら、焦らず、信頼できる医療機関でしっかり治療とリハビリを行いましょう。そのうえで、PRPなどの新しい治療法をどう活かすかを一緒に考えるのが良いと思います。
ちなみに、当クリニック(さくら通り整形外科クリニック)では再生医療(PRP療法・エクソソーム療法)を行っています。無料のカウンセリングも実施しておりますので、ご興味のある方はぜひ、一度、受診してお話しだけでも聞いてみてください。
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あなたにとって最適な選択を、一緒に考えていきましょう。
参考文献
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