マラソンと膝痛の関係性?最新の対処法とは?ー再生医療の選択肢も紹介ー

はじめに

走ることは心身の健康に素晴らしい効果をもたらしますが、マラソンを継続していると膝への痛みを経験する人は少なくありません。特に距離が伸びるほど膝にかかる負担は大きくなり、放置すれば日常生活にも影響が及びます。

この記事では、「なぜ膝が痛くなるのか?」「どう予防・対処すればよいのか?」に加え、近年注目されるPRP療法やエクソソーム治療といった再生医療にも焦点を当て、膝の悩みを根本から改善する選択肢を紹介します。


なぜマラソンで膝が痛くなるのか?

1. 膝にかかる負担

マラソンでは、1kmあたり約1,000回、42kmで約400,000回以上の足の着地が繰り返されます。このたびに膝関節には体重の2〜3倍、下り坂では5倍以上の荷重がかかるため、軟骨・靱帯・腱・滑液包などの構造に微小な損傷や炎症が生じやすくなります

 

特に負荷がかかりやすい部位として①膝蓋大腿関節(膝のお皿の下)、②内側の関節裂隙(内側半月板や関節軟骨)、③腸脛靭帯(膝外側)が挙げられます。

2. よくある膝のトラブルと受傷起点

障害名

主な症状・原因・特徴

①膝蓋大腿関節症 膝を曲げた状態で着地や踏切を行うと大腿四頭筋が働き、

膝蓋骨が大腿骨に押しつけられることで負担がかかり、

炎症が生じる疾患。

②半月板損傷

大腿骨と脛骨の間にある半月板が回旋動作や衝撃で損傷し、

膝の引っかかり感や痛みが生じる疾患。

③ランナー膝(腸脛靭帯炎)

走行時に大腿の外側にある腸脛靱帯が、

膝の外側の骨と擦れて痛みを引き起こす疾患。

膝の外側部に痛みが生じる

痛みを予防するための3つのポイント

1. 柔軟性の確保

ランニングに関わる柔軟性については股関節は推進力や骨盤の安定性、膝のブレ防止につながると言われています。特に、ハムストリングスはストライドと振り出しの滑らかさに大きな影響があるため、しっかりと柔軟をしていく必要があります。また、足関節の柔軟性の改善は着地時の衝撃吸収と蹴り出し効率の改善につながるため、膝への負担軽減になります。

2. 筋力強化

特に重要なのは大腿四頭筋とハムストリングスです。大腿部の筋力強化により、膝のブレ防止につながります。また、膝関節の隣の関節である股関節、足関節も重要です。股関節においては中殿筋・内転筋が強化されることで骨盤の崩れが減り、膝のブレ防止につながります。足関節においては足底内在筋を強化することで過回内(オーバープロネーション)を改善することができ、膝が内側に入るのを防ぐことができます

3. ランニングフォームの見直し

オーバーストライドで歩幅が広すぎると膝が伸び切った状態で接地するため、衝撃吸収がしにくくなります。そのため、ランニングフォームの見直しが必要となります。オーバーストライドの主な原因にはピッチ数の減少や大腿前面の柔軟性の低下、前傾姿勢で走れていないなど要因が挙げられるため、そういった点の見直しが必要になってきます。

4. ランニングシューズの見直し

過回内(オーバープロネーション)を防ぐために、自分の足型に合ったシューズを選びを行うことで膝関節への負担軽減になります。また、必要に応じてインソール(足底板)を作成することでより効果的に足部および膝関節の安定性に繋がり、負担軽減を行うことができます。


保存療法とリハビリの基本

  • PEACE&LOVE(炎症期)

→Protect(保護)、Elevate(挙上)、Avoid anti-inflammatory modalities(抗炎症の回避)Compress(圧迫)、Educate(教育)、Load(荷重)、 Optimism(楽観思考)、 Vascularisation(血流促進)、 Exercise(運動)の総称。

詳細はさくら通り整形外科クリニックYouTube【捻挫 を甘く見てはいけない!】 捻挫 の予防 、治療 原因 や手術 も徹底解説にて紹介されています。

  • 理学療法(理学療法士によるリハビリ)

→疼痛コントロールや関節可動域の拡大、筋力増強練習を実施していき、治癒の促進および再発予防を行なっていきます。

  • 装具療法(膝サポーターやインソール)

→膝自体の安定性の改善を目的に膝サポーターの使用したり、インソールによる足部修正で膝関節の負担を軽減させたりします。

  • 運動再開のタイミング指導

→Drの指示のもと、組織修復の状態に合わせて運動強度を上げていきます。

しかし、慢性化や関節軟骨のすり減りなどが進行している場合、保存療法だけでは限界を感じる方も増えています。


PRP治療(多血小板血漿)とは?

自分の血液で修復力を高める治療

PRPとは、自身の血液から血小板を多く含んだ血漿を抽出し、患部に注射する治療法です。血小板には多くの成長因子が含まれ、炎症を抑えたり、損傷組織の修復を促進したりする効果があります。

対象となる膝の症状

  • 軽度〜中等度の変形性膝関節症

  • 慢性的な腱炎(ジャンパー膝、ランナー膝)

  • 半月板由来の疼痛


エクソソーム治療とは?PRPとの違い

次世代型再生医療

エクソソームとは、幹細胞などの細胞が分泌するナノサイズの情報伝達物質。成長因子やmiRNA、抗炎症成分などが含まれ、組織修復・炎症抑制・免疫調整などに強力に働きます。

膝関節への効果

  • 関節軟骨の再生促進(コンドロサイトの活性化)

  • 炎症抑制(滑膜炎や慢性炎症の改善)

  • ヒアルロン酸やPRP治療より長期的な改善効果を示すデータも【文献5,6】

PRPとエクソソームの違い

比較項目

PRP

エクソソーム

原料

自分の血液

幹細胞の培養液など

効果

自然治癒力の促進

情報伝達による治癒誘導

痛み・腫れ

一時的な反応あり

少ない傾向

臨床使用歴

広く普及中

一部医療機関で導入開始

実際にどう選べばいい?

治療選択の目安

状況

選択肢

軽度の膝痛/炎症

保存療法・理学療法

慢性的な膝痛/スポーツ復帰を早めたい

PRP治療

変形が進行しており、治癒力が低下している

エクソソーム治療(+PRPの併用も検討)

いずれも医師の診断と理学療法士の評価をもとに、段階的なアプローチが大切です。


まとめ:走り続けるための未来医療を選ぼう

マラソンは心と体を鍛える素晴らしい習慣ですが、膝に痛みを感じたらそれは体からのサインです。適切なセルフケアと専門的な治療を受けることで、膝を守りながら生涯ランナーとしての道を歩むことができます。

PRPやエクソソームといった再生医療の選択肢は、単なる「延命措置」ではなく、「膝の回復」を本気で目指すための手段。これらをうまく活用しながら、痛みのない走りを取り戻しましょう。


参考文献

  1. 長谷川聡, 「膝関節疾患と運動療法」, 日本臨床スポーツ医学会誌, 2020

  2. Peerbooms JC, et al. Am J Sports Med, 2010

  3. Filardo G, et al. Am J Sports Med, 2015

  4. 日本整形外科学会|PRP療法ガイドライン, 2021

  5. Toh WS, et al. “Exosomes in cartilage regeneration.” Stem Cell Res Ther, 2017

  6. Zhang S, et al. “Exosomes promote cartilage repair.” Stem Cell Res Ther, 2018

  7. Ouyang X, et al. “Exosomes from MSCs alleviate OA.” Stem Cell Res Ther, 2020

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