- 膝の痛みの治療には、納得して進めるための「順番」があります。
- 保険診療でできることは、多くの方が思っているより広い範囲に及びます。
- 薬・注射・リハビリで痛みが残る場合、条件を満たせば保険適用のラジオ波治療(アキュリアン)を検討できます。
- 保険の範囲をやり切ることは、自費診療を受ける場合にも判断材料になります。
- 自費診療を検討してよいタイミングには、いくつかの目安があります。
膝の痛みについて調べていると、注射やあたらしい治療の情報が次々に出てきます。「これを受ければ手術しなくて済むのだろうか」と考えて当院にお越しになる方も、少なくありません。
そうしたご相談をいただいたとき、当院がまずお伝えしているのは治療の名前ではなく、順番の話です。膝の治療には、先に済ませておいたほうが結果も納得感も良くなる手順があります。この記事では、その順番についてご説明します。
先にお断りしておくと、これは「自費の治療はよくない」という話ではありません。保険の範囲で改善しきらない痛みは確かに存在しますし、当院でも自費の選択肢をご用意しています。ただ、その選択肢が本当に必要かどうかは、先にやるべきことを済ませてからでないと判断できません。膝の痛みは、原因も進行度も人によって大きく異なります。同じ治療でも、合う方と合わない方がいます。だからこそ「何を受けるか」より先に「今の自分はどの段階にいるのか」を確かめる必要があるのです。

保険診療でできることは、思っているより多い
「保険でできることはもうやった」とおっしゃる方に詳しくうかがうと、痛み止めとヒアルロン酸注射だけ、というケースがよくあります。実際には、保険診療の範囲は次のように広がっています。
- 画像による診断レントゲンに加え、当院では院内のMRIで半月板や靱帯、骨の内部の状態まで確認できます。
- 内服薬・外用薬痛みの強さや原因、胃腸・腎機能などの背景に合わせて選択します。
- 関節内注射ヒアルロン酸やステロイドなど。目的と使い分けが異なります。
- 運動器リハビリテーション理学療法士が11名在籍し、筋力・可動域・歩き方に個別に介入します。
- 装具・インソール膝にかかる負担のかかり方そのものを変えるアプローチです。
- 体重のコントロール膝にかかる荷重そのものを、物理的に減らす方法です。
これらは単独で使うものではなく、組み合わせることで効果を引き出しやすくなります。たとえば注射で炎症が落ち着いている期間にリハビリで筋力をつける、というように、順番と組み合わせで結果が変わります。
リハビリは「通うこと」ではなく「続けること」で差が出ます
膝の痛みの多くには、関節そのものの変化だけでなく、太ももやお尻の筋力低下、関節の動く範囲の制限、歩き方のくせが関わっています。これらは注射や薬だけでは変えにくく、主にリハビリで取り組む部分です。
一方で、筋力や動作のくせは数回の通院では変わりません。筋力や動きの変化が目に見えてくるまでには、数か月単位の継続が必要になることが一般的です。ここで「効かないからやめた」となってしまうと、いちばん土台になるはずの部分が抜けたまま次の治療に進むことになります。当院に理学療法士が11名在籍しているのは、この継続の部分を人手をかけて支えるためです。

体重は、膝の負担を直接減らせる要素です
歩くとき、膝には体重の数倍の負荷がかかるとされています。階段の下りではさらに大きくなります。つまり体重が1kg変わるだけでも、歩行時に膝が受ける力はその数倍分変わることになります。
これは根性論ではなく、物理的な話です。薬や注射が「痛みの感じ方」や「炎症」に働きかけるのに対し、体重のコントロールは膝にかかる力そのものを減らせる数少ない手段です。無理な減量をお勧めするわけではありませんが、他の治療と並行して取り組む価値は十分にあります。
電気治療やマッサージのみを数回受けた状態と、理学療法士が評価したうえで運動プログラムを3か月続けた状態とでは、同じ「リハビリをやった」でも内容がまったく違います。当院では初診時に、これまで受けてきた治療の内容を具体的にうかがっています。
保存療法で痛みが残るとき:保険適用のラジオ波治療(アキュリアン)
薬・注射・リハビリを続けても痛みが十分に取れない変形性膝関節症には、自費の治療を考える前に、保険で受けられる選択肢があります。ひざの痛みを伝える神経に働きかける「末梢神経ラジオ波焼灼療法」で、2023年6月1日から健康保険が適用されています。当院ではアキュリアンという機器を用いて、保険診療としてご提供しています。

- どのような治療かひざの痛みを伝える3本の神経(上内側・上外側・下内側)に、超音波(エコー)で位置を確かめながら細い針を進め、高周波の熱で神経の働きを弱めます。局所麻酔で行い、入院は必要ありません。
- 対象になる方変形性膝関節症による慢性的な痛みがあり、内服薬・関節内注射・リハビリなどの保存療法を受けても、痛みが十分に取れていない方。手術の対象とならない、または手術を選ばない事情がある方。
- 費用の目安保険診療です。1割負担の方で約15,000円、3割負担の方で約45,000円。別途、診察料や検査料などがかかります。
- 知っておいていただきたいこと軟骨が元に戻る治療ではありません。痛みがゼロになるわけではなく、効果には個人差があります。神経は時間とともに回復するため、痛みが再び出てくることがあります。
保険で受けられるかどうかは、診察と画像で判断します
「保存療法をやりきったか」は、期間だけでなく、薬・注射・リハビリを一通り続けたうえで、生活の中の痛みが変わっていないかを確認します。ひざ以外(腰や股関節)に痛みの原因がある場合や、明らかに手術が必要な状態の場合は、この治療の対象になりません。
必ず評価の段階を挟みます。血液をさらさらにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を飲んでいる方は、処方元の医師と相談のうえで判断しますので、必ずお申し出ください。治療の詳しい内容は、ひざラジオ波治療のページでもご案内しています。
なぜ「順番」が結果を左右するのか

- 診断を確定させる
- 保険診療(アキュリアンを含む)を尽くす
- 残った痛みに、次の選択肢を検討する
1. 診断が定まらないまま治療しても、狙いが外れる
同じ「膝の内側が痛い」でも、変形性膝関節症、半月板損傷、鵞足炎、腰から来ている痛みなど、原因は複数考えられます。原因によって効く治療は変わります。まず診断を確定させることが、遠回りに見えていちばんの近道です。
2. 保険の範囲で、十分に改善する方もいらっしゃいます
診断に基づいてリハビリと薬、注射を適切に組み合わせると、それだけで日常生活に支障がない状態まで戻る方がいらっしゃいます。それでも痛みが残る場合も、条件を満たせばラジオ波治療(アキュリアン)を検討できます。自費の治療を検討する前に、こうした保険での可能性を確かめないまま費用をかけるのは、もったいない選択です。
3. 保険治療をやり切っていないと、自費の効果が判定できない
リハビリを始めたばかりの時期に自費の注射を受けると、改善したときに「注射が効いたのか、リハビリが効いたのか」が分からなくなります。2回目以降を受けるかどうかの判断材料が失われるということです。
4. 保険診療と自費診療は、自由には組み合わせられません
日本の公的医療保険では、保険が適用される治療と適用されない治療を、一連の診療の中で併せて行うことが原則として認められていません(いわゆる混合診療の禁止)。そのため、自費の治療を受ける際には、同じ膝の診察や注射、リハビリの受け方に制約が生じます。通院の組み立て方に関わることなので、具体的な扱いは診察時にご説明します。
5. 費用の問題
自費診療は全額が自己負担です。効果には個人差があり、期待した結果が得られないこともあります。ラジオ波治療(アキュリアン)を含めて、先に保険の範囲を尽くしておくことは、「ここまでやっても残っている痛みに対して費用をかける」という納得のいく意思決定につながります。
実際にはこのくらいの時間軸になります
あくまで一例ですが、当院で膝の痛みを診るときの標準的な流れは次のようになります。
- 初診〜2週問診と診察、レントゲン。必要に応じてMRI。診断を確定させ、まず薬とリハビリを開始します。
- 1〜3か月リハビリを継続しながら、炎症が強い時期には注射を併用。装具やインソール、体重の課題があればここで着手します。
- 3か月以降ここまでの反応を見て、改善した部分と残った痛みを整理。残った痛みに対して、ラジオ波治療(アキュリアン)の対象になるかを確認し、次の選択肢を一緒に検討します。
3か月という区切りに絶対的な根拠があるわけではありませんが、リハビリの効果が出そろい、注射の効き方の傾向も見えてくる時期です。この段階で一度立ち止まって現状を評価することを、当院では大切にしています。
では、自費診療を検討してよいのはどんなときか

次のような状況がそろってきたときが、ひとつの目安になります。すべてを満たす必要はありませんが、上の2つは前提と考えてください。
- 画像検査を含めて診断が確定している
- 理学療法士によるリハビリを、一定期間(おおむね3か月程度)継続した
- ヒアルロン酸注射を続けてきたが、効果が乏しい、または効いている期間が短くなってきた
- ラジオ波治療(アキュリアン)の対象になるかを確認した
- 手術を勧められる段階ではない、あるいは手術を選ばない事情がある
- 費用とリスク、効果には個人差があることの説明を受け、納得している
手術が必要な状態かどうかは、画像の変形の程度だけでなく、痛みの強さ、生活への支障、年齢やお仕事の状況を合わせて判断します。まずは現状を客観的に整理するところから始めましょう。手術という選択肢を否定するものではありません。
当院で用意している自費の選択肢について
ラジオ波治療(アキュリアン)を含め、保険診療の範囲を尽くしたうえで、なお痛みが残る方に対して、当院ではPFC-FD療法をご用意しています。患者さんご自身の血液から、組織の修復に関わる成長因子を濃縮してフリーズドライ化したものを、膝関節内に注射する治療です。
ただし、どなたにでもお勧めするものではありません。変形が進行した段階では期待できる効果が限られること、効果の感じ方に個人差が大きいことも、診察の場で率直にお伝えしています。詳しい適応やリスクについては、診察時にご説明します。治療の流れや費用は、当院のPFC-FD注射のページでもご案内しています。

- 採血(約50mL)
- 専用の施設で加工(約3週間)
- 後日、膝に注射
- 公的医療保険の適用について
- 本治療は自由診療であり、公的医療保険は適用されません。費用は全額自己負担となります。
- 標準的な費用
- スタンダード(PFC-FD):1回 163,000円/2回 251,000円/3回 350,000円
プレミアム(PFC-FD 2.0・5.0):1回 328,000円/2回 548,000円/3回 713,000円
いずれも税込。採血・血液の加工・注射までの費用を含みます。医療費控除の対象となる場合があります。 - 治療の内容
- 患者さんご自身の血液を約50mL採取し、国(厚生労働大臣)の許可を受けた特定細胞加工物製造施設で、感染症検査のうえ加工します。加工にはおよそ3週間かかり、後日あらためて膝関節内に注射します。採血日と注射日は別の日となります。
- 主なリスク・副作用
- 注射部位の痛み、腫れ、熱感、内出血、血腫が生じることがあります。まれに関節内の感染、神経の損傷、アレルギー反応を起こす可能性があります。採血に伴い、気分不良やめまい(血管迷走神経反応)が生じることがあります。効果には個人差があり、十分な効果が得られない場合があります。
- 未承認医薬品等であることについて
- 本治療に用いるPFC-FDは、医薬品医療機器等法上の承認を受けた医薬品ではありません。医薬品ではないため、医薬品副作用被害救済制度の対象外となります。
- 入手経路等
- 患者さんご自身から採取した血液を原料とし、国(厚生労働大臣)の許可を受けた特定細胞加工物製造施設において加工されたものを使用します。医師の個人輸入によるものではありません。
- 国内の承認医薬品等の有無
- 本治療と同一の効能・効果で国内の承認を得た医薬品はありません。
- 諸外国における安全性等に係る情報
- 【要確定:リーガルチェックのうえ記載。海外における同種治療の規制上の位置づけ、重大な副作用の報告状況を事実ベースで記載する必要があります】
- お問い合わせ先
- さくら通り整形外科クリニック 電話 0776-58-7138/福井県福井市日之出4-11-17
よくいただくご質問
まず、何から始めればよいですか
診察と画像検査で、今の膝の状態を確認するところから始めます。これまでに受けてきた治療(薬・注射・リハビリの内容と期間)をお聞かせください。お薬手帳や紹介状があれば、お持ちいただけると正確に確認できます。
ラジオ波治療(アキュリアン)は、保険で受けられますか
条件を満たす場合は、保険診療で受けていただけます。費用の目安は、1割負担の方で約15,000円、3割負担の方で約45,000円です(別途、診察料や検査料などがかかります)。条件を満たすかどうかは、診察と画像検査で判断します。
ラジオ波治療(アキュリアン)とPFC-FD療法は、どちらを先に検討しますか
当院では、保険で受けられる治療を先に検討することを基本にしています。ただし、膝の状態や生活の状況によって適した進め方は異なりますので、診察のうえでご説明します。
自費の治療は、必ず受けなければいけませんか
いいえ。自費の治療をお勧めすることを目的とした診察ではありません。保険診療の範囲で日常生活に支障がない状態まで戻る方もいらっしゃいます。次の選択肢を考えるかどうかは、ご説明を聞いたうえで、ご自身で決めていただけます。
他の医療機関で治療を受けていますが、相談できますか
ご相談いただけます。現在の治療を中断していただく必要はありません。紹介状や画像データをお持ちいただけると、これまでの経過を踏まえて確認できます。
まとめ
膝の治療で大切なのは、どの治療を選ぶかという前に、どの順番で試すかです。診断を確定させ、保険診療でできることを組み合わせて尽くす。保存療法で痛みが残る場合は、ラジオ波治療(アキュリアン)も検討する。そのうえで残った痛みに対して、費用とリスクを理解したうえで次の選択肢を考える。この順番を踏むことで、不要な出費を避けられるだけでなく、治療を受けたときの判断もしやすくなります。
逆に言えば、順番を飛ばしてしまうと、効いたのか効かなかったのかが分からないまま費用だけが積み上がる、ということが起こり得ます。これは患者さんにとっても、治療する側にとっても望ましくない状態です。
「今どの段階にいるのか分からない」「これまで受けてきた治療が適切だったのか判断できない」という方こそ、一度ご相談ください。治療を売り込むためではなく、現在地を整理するところからお手伝いします。そのうえで、保険の範囲でまだできることがあればそれをお伝えしますし、次の段階に進む時期であればその選択肢をご説明します。


